日本の森林土壌における土壌呼吸の季節変動とその予測

                              土壌学分野   加藤 綾子

【背景と目的】

地球温暖化を引き起こす温室効果ガスのひとつに二酸化炭素があるが、その吸収源として森林が期待されている。しかし、森林による二酸化炭素の吸収量は今後の気候変化により変化し得るものであり、それを予測するためには、二酸化炭素の吸収と放出に影響を及ぼす因子を解明する必要がある。本研究では、森林での二酸化炭素放出過程のひとつである土壌呼吸の季節変動とそれに影響を及ぼす因子を解明するとともに、現場での測定に時間と労力のかかる土壌呼吸速度を室内培養による炭素無機化実験から推定することを試みた。

【方法】

気候帯・母材・植生の異なる、京都市吉田山(暖温帯域・堆積岩母材の褐色森林土)のシイ林、京都府丹後半島(冷温帯域・花崗岩母材の褐色森林土)のブナ・スギ・ミズナラ林、長野県八ヶ岳(冷温帯域・火山灰母材の黒ボク土)のミズナラ林の計3地域5サイトを調査地として選んだ。土壌呼吸を、鉱質土層有機物の分解・O層の分解・根の呼吸に分けて求めるため、各種処理を施したチャンバーを用いて密閉チャンバー法により測定した。処理は各4連で、O層を除去した〈O層なし〉、深さ20cmまで埋めて根を切り底にシートを敷いて根の呼吸を排除した〈根なし〉、対照区の〈無処理〉であり、[鉱質土層有機物の分解]=〈O層なし〉+〈根なし〉−〈無処理〉、[O層の分解]=〈無処理〉−〈O層なし〉、[根の呼吸]=〈無処理〉−〈根なし〉として求めた。さらに10~15cm深で地温・土壌水分の自動計測、リタートラップによるリターフォール量の評価も行った。また各サイトの表層土と次表層土を採取し、温度条件を102025℃、水分条件を最大容水量の204060%に設定した室内での長期培養による炭素無機化実験を行った。

【結果と考察】

すべてのサイトにおいて土壌呼吸速度は夏期にピークを持つ季節変動を示した。吉田山のO層分解は、同じ地温に対し春に高く秋に低いという変動を見せたが、これは4~5月にリターフォール量が多いためであると考えられた。土壌呼吸速度の温度・水分依存性を調べるために、土壌呼吸速度(SR)と地温の絶対温度(K)の関係はアレニウスの法則に従うと仮定し、それに水分因子(体積含水率:W)を加えた式、SRexp[a/(R×K)]×Wb×cR:気体定数)により段階的重回帰分析を行った。その結果水分因子は棄却され、SRは地温のみによって説明された。日本の気候下では地温の季節変動に比べて土壌水分の変動は少ないため、土壌呼吸速度の季節変動は温度に強く規定されているといえる。上記の式に、現場の地温データを代入して年間の土壌呼吸量を求めた結果、吉田山で10.1tC ha1、丹後で8.7~9.9 tC ha1、八ヶ岳で5.7tC ha1 となった。年間の土壌呼吸量に対する三構成要素の寄与は、地温が高いサイトほどO層の分解の寄与は大きく鉱質土層有機物の分解の寄与は小さかった。地温が高いとリターフォールはO層で速やかに分解されるため、鉱質土層への有機物の移行が少ないと考えられた。また地温が高いサイトほど根の呼吸の寄与は大きかった。リターフォール量はすべてのサイトでO層の分解よりも小さかったが、その理由として、チャンバー設置時の攪乱の影響によりO層の分解が過大評価されていることが考えられた。

炭素無機化実験の結果に対し、1)炭素無機化反応は一次反応である、2)現場の土壌呼吸速度と同様アレニウスの法則に従う、と仮定して温度・水分条件を説明変数として重回帰分析を行った。得られた回帰式に現場の地温・土壌水分データを代入して年間の炭素無機化量を推定した結果、現場の鉱質土層有機物の分解よりも小さな値をとったサイトがあった。その理由のひとつとして、〈根なし〉処理においてチャンバー設置時に切られた根が新鮮有機物として供給されたために鉱質土層有機物の分解が過大評価されていることが考えられた。